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熊本地方裁判所山鹿支部 昭和30年(タ)1号 判決 1956年9月12日

主文

原告と被告とを離婚する

被告は原告に対し金拾弐万円及之に対する昭和参拾年四月九日以降完済に至る迄年五分の割合による金員を支払え

原告その余の請求は之を棄却する

訴訟費用は之を三分しその一を原告その余を被告の負担とする

事実

(省略)

理由

原被告が訴外牛原初女の媒酌により昭和二十五年十二月下旬事実上の婚姻をし翌二十六年二月十三日その届出をしたこと被告が婚姻中訴外岡野友子と情交関係を生じたこと被告が原告に対しその主張の様な傷害を與えたことは当事者間に争がない而して成立に争のない甲第一、二号証同第四号証同第六号証同第七号証乃至第九号証の七乙第一、二号証同第四号証の二に証人牛原初女の証言及原被告本人尋問の結果を綜合すれば

原告は自作地小作地各二、三反を有する農家の長女として生れ高等小学校卒業朝鮮において結婚し夫との間に二児を設け昭和十九年十一月頃実家に引揚げ夫が昭和二十年七月フイリピンで戦死した後も引き続き実父の許にあつて農業の手伝をして居たものであり被告は高等小学校卒業後小学校教員養成所を修了して大正九年四月迄小学校教員その後鹿本鉄道株式会社熊本無尽株式会社山鹿支店に勤務し昭和二十二年四月右無尽会社を退社後は新聞取次販売(現在は実子に事業を譲る)兼農業を営み現在は農業協同組合理事外二、三の村部落の役職を兼ね田二反半位畑三反半位山林二畝位宅地四十三坪位木造藁葺平家建居宅一棟(建坪十六坪位)及トタン葺平家建小屋一棟(建坪十二坪位)を有するも右耕作地中僅かに畑一反余を自ら耕作するのみ他は全部小作に出し月収約一万円を得て居るものである

原被告は昭和二十五年十二月下旬訴外牛原初女の媒酌により事実上の婚姻をし翌二十六年二月十三日その届出をした原告は先夫との間の二児(当時男の子十才位女の子七才位)を連れて嫁いだものであるが始め円満であつた一家の生活も二年位経つた頃から兎角夫婦の間和を欠くに至り(原告の長男はすでに昭和二十六年六月頃原告の父の許に帰つて居た)昭和二十九年初頃被告が訴外岡野友子と情交関係を生じ間も無く原告の知る処となつてからは原被告間に風波の立つ事が多くなつた同年八月九日夜被告が飲酒の上帰宅して原告に右友子を呼びにやらせたところ原告が友子を連れて来なかつたことから口論となり被告は飯台の上にあつた丼を原告に投付け因つて治療約二ケ月を要する左腓骨々折(治療費総計七千三百円)の傷害を與えた原告はその夜被告の家を出てこゝに同棲生活三年半余で別居することゝなり現在は福岡市の鴨井病院で月給三千円の住込勤務の生活をして居る婚姻に際し原告は被告の女癖の悪いことは知つて居たというのであるがこの点に関し被告に対し注意を促す外特別の工夫努力の為された形跡はない。

ことを認定することができる然れば被告に不貞の行為があるとして離婚を求める原告の請求は理由があり且つ前記認定の如き情況にある本件にあつては原告に対する慰藉料は金十二万円を以て相当とし本件訴状送達の翌日が昭和三十年四月九日であることは記録に徴し明白であるから被告は原告に対し慰藉料として金十二万円及之に対する昭和三十年四月九日以降完済に至る迄民法所定年五分の割合による金員を支払うべきものである仍て訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条第九十二条本文を適用して主文の通り判決する

(裁判官 金子勝蔵)

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